【脳と機械のかけはし】多数のマイクロセンサーを利用した次世代Brain Computer Interface【Neurograins】

先日会員登録したACM経由で存在を知ったACM TechNewsで、Brain Computer Interface (BCI)に関するニュースを見つけました。2021年8月12日にNature Electronicsに掲載されたJihun Lee et al.の論文を紹介するもので、元論文はこちらになります。Neurograinという100μm以下の超小型センサーをラットの脳に多数埋め込み脳の電気的活動を観察するという、非常にワクワクする内容であったため記事にして共有させていただきます。

Brown University

A new kind of neural interface system that coordinates the a…

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Brain Computer Interfaceとは

Brain Computer Interface (BCI)は読んで字のごとく、脳と人を直接つなげるためのインターフェースです。現代の電子計算機はシャノンの提唱したデジタル回路、すなわち論理ゲートの真偽値を電圧の高低と対応させた回路を基礎としています。その回路で行われている情報処理と人間が相互作用できるようにするための装置がインターフェースですね。より身近なものだと、マウスやキーボード、ディスプレイなどがあります。BCIは「攻殻機動隊」や「マトリックス」といった作品にも登場しており、フィクションの世界ではもはお馴染みになっている感がありますが、現実世界においても開発は着々と進んでいるようです。

Bionic Eye Implants (人工眼)

2012年8月、Bionic Vision Australia (現 Bionic Vision Technologies)が網膜色素変性症で視力を失った54歳女性に対し、世界で初めてBionic Eye Implants埋め込み手術を行いました。この手術により女性は物の形が分かる程度まで視力が回復したとのことです。Bionic Eye Implantsは主にメガネ型のデバイスで、メガネ前方にあるカメラから取得した映像を網膜(眼の奥にあり、光を感知して視神経へと伝える膜)に埋め込まれた電極へと伝えることで、(物の形が分かる程度の)視力を取り戻すことができます。

現在も米国のSecond Sight(Argus IIという人工眼が有名)やオーストラリアのMonash Vision Group等が開発を盛んに行っており、完全な視力を取り戻せる装置を開発することが当面の課題となっています。

Bionic Arms (バイオニック義手)

2011年から2014年にかけてオーストリアのOskar C Aszmann et al.が、事故で腕の神経を損傷した3名の患者に対しBionic Armを導入する研究を行いました(元論文はこちら)。研究は2段階に分かれており、1段階目で義手を頭の中のイメージだけで動かす訓練を行い、2段階目で腕の切断・義手の導入を行いました(神経は使えなくても腕自体は残っていた)。下にあるのはBionic Armを使っている実際の動画です。

両手が普通に使える方からすると心もとない動きに見えるかもしれませんが、全く手を動かせない方からすれば大きな進歩に見えるのではないでしょうか。現在は指の動きだけでなく、触覚も限定的ですが再現できる義手が開発されています。例えば米国のCleveland Clinic (クリニックと名前にありますが、全米屈指の有名病院です)の研究施設が開発したBionic armは、動かなくなった腕に残された神経を胸まで移植し、義手のセンサーから得た信号を胸の神経に伝えることで触覚を再現しています。

Cleveland Clinic

Cleveland Clinic researchers develop advanced prostheses for…

Neurograinsとは

Nerugorainsの画像
Credit: Jihun Lee

少し長くなりましたが冒頭の記事の話に戻りますね。Jihun LeeらがNerurograinsと呼称しているのは無線通信可能な100μm以下のインプラント(埋め込み機器)で、脳の電気的活動を感知する機能と脳を電気的に刺激する機能を有しています。脳と機械双方向のコミュニケーションが可能というわけすが、これはつまり脳でコンピュータを操作するだけでなく、触覚や視覚等を脳で再現することも原理的には可能ということです。

この非常に小さいチップを大脳皮質(脳の外側、浅い部分で神経細胞が集まっている。)に数十数百と埋め込むわけですが、チップ群を管理するために”Skin Patch”という着脱式の装置を身に着ける必要があります。このSkin Patch(帽子のようなものなのでしょうか?)がチップへの無線給電と情報処理(チップからのデータを読んだり、刺激の指令を出したりする。)を行うのだそうです。

今後の展望

Neurograinsはまだ駆け出しの技術ではありますが、埋め込み後も日常生活に支障を来さないほど小型という点では非常に画期的だと思います。今後行われるであろう安全性の評価に期待です。…素材が分からないので何とも言えないのですが、MRI検査(体内に磁性体があると検査できない)は受けられなくなってしまうのでしょうか?そうだとしたら埋め込み自体には問題がなかったしても、医療的には看過できないデメリットかもしれません。またチップの出力の関係で難しいかもしれませんが、体外式のSkin Patchが必要となる点もいつかは解消されてほしいですね。

参考

  • Brown University News from Brown (https://www.brown.edu/news/2021-08-12/neurograins)
  • Brown University Carney Institute for Brain Science (https://www.brown.edu/carney/research-project/neurograins)
  • Review Optometry (https://www.reviewofoptometry.com/article/worlds-first-bionic-eye-implant-is-a-success)
  • Cleveland Clinic (https://my.clevelandclinic.org/patient-stories/253-bionic-prosthetic-arm-restores-sensation-for-marine-veteran)
  • WIRED 『脳とつながる「バイオニック義手」手術が成功』(https://wired.jp/2015/04/03/bionic-reconstruction/)